大判例

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広島高等裁判所松江支部 昭和25年(ネ)24号 判決

控訴代理人は控訴の趣旨として原判決を取消す。昭和二十四年五月三十日大和紡績株式会社宍道工場從業員組合が控訴人に対して爲した除名処分は無効であることを確認する。被控訴人は各自控訴人に対して昭和二十四年六月七日から百八十日間まで一日について五十一円八十九銭、その翌日から控訴人就職の日まで一日について百二十円八十九銭の割合による金員を支拂え。訴訟費用は第一、二審を通して被控訴人の負担とする旨の判決並に金員支拂請求部分について保証を條件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

三、事  実

当事者双方の事実上の主張は次の点を附加した外原判決摘示の通りであるからこゝにこれを引用する。

(一)  控訴人の主張。控訴人が甲第四号証の如きビラを配布したことは憲法の保障する言論の自由の範囲内の行動でありこれがため当然控訴人が組合員たるの本分に反する行動に出でたものとは言えない。從つて被控訴人組合は何等の根拠に基づかずして控訴人を除名したものであるから本件除名処分は個人の言論の自由を侵害するもので当然無効である。

(二)  被控訴人の主張。本件除名処分の有効を主張する。

証拠関係については当審で控訴代理人において証人渡辺保夫の訊問を求めた外原判決摘示の通りであるからこゝにこれを引用する。

四、理  由

当裁判所は被控訴組合の控訴人に対する本件除名処分を有効と判断するものであつてその理由は次の点を附加する外原判決摘示の通りであるからこゝにこれを引用する。

(1)  本件除名処分は聊か苛酷に失するとの感を免れないに拘わらずその手続にこれを当然無効とすべき瑕疵のないことは原判決理由に摘示の通りであつて当審における証人渡辺保夫の供述中右認定に反する部分は措信しない。

(2)  控訴代理人は本件除名処分は何等の根拠に基づかずして爲されたものであり個人の言論の自由を侵害するものであると主張するけれども控訴人の本件ビラ配布行爲が被控訴組合規約(乙第一号証ノ一)第二十六條第一号に基づく細則(乙第一号証ノ二)第五條第一項「組合ノ健全ナル運営ヲ阻害スルガ如キ言動並ニ素行アリタルトキ」に該当するものとして本件除名処分は爲されたものである。成る程一個人としては甲第四号証のようなビラを配布することは現行憲法並に諸法令の枠内では自由であろう。又会社の労働基準法違反の事実を監督官に申告することは労働者の権利であり使用者はこの申告を理由として不利益を與えることはできないことは労働基準法第百四條の規定に照らし明かである。然しながら控訴人が純然たる個人の立場をはなれ労働組合員たる地位に立つ限りその定める労働組合規約が著しく不当のものでない限りこの規約の定めるところに從つて行動をせねばならずこの限度においては個人の有する言論の自由も或程度の制約を受けることは已むを得ないことである。而して本件は会社の労働基準法違反の事実を監督官に申告したのではなくして違反の事実を公に暴露ししかもその文言は挑発的煽動的であつて無用に労資の対立を刺戟し尖鋭化させるものであつたのであるから被控訴組合が控訴人の本件ビラ配布行爲を目して前示規約並に細則の規定に該当するものとして控訴人に対し細則所定の制裁を加えたことは容易に首肯し得るところであつて本件除名処分を個人の言論の自由を侵害する無効のものと断ずることはできない。要するに控訴代理人は独自の見解に立つて本件除名処分の無効を主張するものであつて到底これを容認することはできない。

以上の次第であつて控訴人の本訴請求中除名処分が無効であることの確認を求める部分はその理由がないし右処分が無効であることを前提として被控訴人等に対し損害賠償を求める部分も亦その理由を欠くに帰するからその余の点について判断するまでもなく失当でありこれと同一の結論に出た原判決は相当であるから民事訴訟法第三百八十四條第一項第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 平井林 久利馨 藤間忠顕)

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